大判例

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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)6402号

原告

植村益吉

原告

酒井敬治

原告両名訴訟代理人弁護士

梅垣栄蔵

梶谷哲夫

被告

宝塚エンタープライズ株式会社

右代表者代表取締役

伊藤與朗

被告訴訟代理人弁護士

鶴田啓三

右当事者間の頭書請求事件について、当裁判所は、昭和五八年五月一〇日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

一  被告は原告植村益吉に対し、金一六万四四五〇円とこれに対する昭和五七年四月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告酒井敬治に対し、金一九万〇七二五円とこれに対する昭和五七年四月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の、その余を原告らの、各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

一  申立

1  原告ら

(一)  被告は原告植村益吉に対し、金七四万八四三〇円と内金四五万六四四〇円に対する昭和五七年四月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員とを支払え。

(二)  被告は原告酒井敬治に対し、金八八万一六八五円と内金五三万六二〇五円に対する昭和五七年四月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員とを支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決、並びに、右(一)、(二)項についての仮執行宣言。

2  被告

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

二  主張

1  原告らの請求原因

(一)  原告植村益吉は昭和五四年三月二七日に、原告酒井敬治は昭和五三年一一月一日に、それぞれ被告に従業員として雇用されて、いずれも、被告大阪支店に勤務していたものである。

(二)  被告は、昭和五七年四月一九日、原告らに対し、原告らを即時解雇する旨の意思表示をし、これにより、原告らは、同日被告を退職した。

(三)  右当時の原告らの平均賃金三〇日分は、原告植村益吉が金二九万一九九〇円、原告酒井敬治が金三四万五四八〇円であった。

(四)  被告の退職金規定によれば、退職者に対し、退職時の給与額を基にした基準額に勤務年数に応じた所定支給月数分を乗じて算定した額の退職金を支給する旨の定めであったところ、原告らの右基準額は、原告植村益吉が金一六万四四五〇円、原告酒井敬治が金一九万〇七二五円であり、原告らの右支給月数分はいずれも一であった。

(五)  よって、原告らは被告に対し、それぞれ次記金員の支払を求める。

原告植村益吉

解雇予告手当 金二九万一九九〇円

附加金 金二九万一九九〇円

退職金 金一六万四四五〇円

原告酒井敬治

解雇予告手当 金三四万五四八〇円

附加金 金三四万五四八〇円

退職金 金一九万〇七二五円

遅延損害金 それぞれ解雇予告手当と退職金との合計金に対する退職日の翌日起算、民法所定の年五分の割合によるもの

2  請求原因に対する被告の認否

請求原因(一)(雇用関係)、同(三)(平均賃金額)、同(四)(退職金規定と原告らの基準額等)の各事実は認める。

請求原因(二)(解雇)の事実は否認する。

請求原因(五)は争う。

3  被告の抗弁

(一)  懲戒解雇等

(1) 被告において、原告酒井はコンピュータ室次長、原告植村は会員業務課長の職にあったが、原告らは、在職中からその職を利用して、被告の事業と競合する類似の会員制のクラブの設立を計画・準備し、被告の顧客(会員)名簿・利用規約・施設案内等を無断で持ち出したり、他の従業員に退職を強要したり、勤務時間内に右クラブの設立準備行為をしたりする等の不法行為をしたので、原告らは、自らその非を認め、昭和五七年四月一九日、被告に対し、それぞれ任意に退職願を提出した。

(2) しかし、被告は、右退職届を一応預ったまま調査の結果、原告らの右行為は被告の就業規則所定の懲戒解雇事由に該当すると判明したので、原告らを右同日付で懲戒解雇とすることとし、同年五月一一日原告らに対しそれぞれその旨の意思表示をし、いずれもその頃原告らに到達した。

(3) 被告の退職金規定によれば、懲戒解雇又はこれに準ずる事由による退職のときは、退職者に対し、所定の退職金を支給しない旨の定めであった。

(4) よって、原告らの退職(懲戒解雇)については、被告は退職金・解雇予告手当等の支払を要しない。

(二)  退職金減額規定

(1) 被告の退職金規定によれば、自己都合退職の場合は退職金を所定退職金の半分とする旨の定めであった。

(2) よって、仮に、原告らに退職金を支給すべきとしても、原告らの退職は、自己都合退職であったから、その支給額は原告らの主張額の半額となる。

4  抗弁に対する原告らの認否

(一)  抗弁(一)の(1)の事実は全て否認する。

なお、原告らが、昭和五七年四月一九日、被告に対する退職届に署名押印したことはあるが、これは、原告らが任意に自発的に為したものではなく、被告専務佐藤耕一から解雇を申し渡されたとき、これを書くよう強要されてやむえず為したものである。

同(2)の事実は不知乃至争う。

同(4)は争う。

(二)  抗弁(二)の(1)の事実は認める。

同(2)は争う。

三  証拠(略)

理由

一  争点の概要

本件雇用関係(請求原因(一))、原告らの平均賃金額(同(三))、退職金支給規定と原告らの退職金算定の基礎数値(同(四))、自己都合退職のときの退職金減額規定(抗弁(二)(1))、以上の点は当事者間に争いがなく、また、懲戒解雇等のときの退職金不支給規定(抗弁(一)(3))の点は原告も明らかに争わないと認められ、更に、原告らが被告を退職済であることは、その時期・原因を除けば、当事者双方が一致して主張する(請求原因(二)、抗弁(一)(1)、(2))ところである。

従って、本件の主要な争点は、

1  原告らの被告退職の原因を、昭和五七年四月一九日付通常解雇とみるか、同日付自己退職乃至合意退職とみるか、或いは、同年五月一一日頃発効の懲戒解雇とみるか、の点、とりわけ、(証拠略)(退職届)の提出前後の事情をどうみるかの点

2  原告らの右退職に関し、原告らの責めに帰すべき事由がどの程度存したかの点

3  右1、2の判断をふまえた原告ら請求の解雇予告手当、附加金、退職金債権の有無及び算定の点

といえるので、右争いのない点を前提に、右争点に添って、順次判断する。

二  原告らの退職原因について

1(一)  原告らが昭和五七年四月一九日にそれぞれ退職届と題する書面(<証拠略>)に署名押印のうえ被告に提出したこと、は当事者間に争いがない。

(二)  そして、(証拠略)によれば、次の(1)乃至(7)の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

(1) 昭和五七年四月一九日、被告専務取締役佐藤耕一は、被告管理部長西内一郎立会のもとに、原告両名に対し、「原告らがやろうとしていることは大体判っている。この際、退職するように。」との旨告げ、原告らに退職届を提出するよう強い口調で求めたこと。右佐藤専務の話は、事前の予告なしに、また、具体的な理由の説明もなしに、為されたものであったこと。

(2) これに対し、原告両名は、その理由を尋ねたり、抗弁したりせず、すぐに、その場で退職届(<証拠略>)を書いて提出したこと。

(3) 佐藤専務は、これに続いて、原告両名に対し、万一原告らが会員名簿の情報を流出させて被告に損害を及ぼしたときは、その損害を賠償することを予め約束するよう求め、その旨の念書を書くよう要求したところ、原告両名は、すぐに、その場で、その旨の念書(<証拠略>)を作成提出したこと。

(4) 被告は、右退職届と念書をその場で受取ったが、その際、これは一時預っておくものであるとか、後日調査のうえ処分もありうるとかの旨の言はなかったこと。

(5) この間のやりとりの時間は、約一時間半であり、内約一時間は、原告ら同様退職を求められた従業員の到着待時間であったこと。そして、右やりとりの際、右佐藤専務は強い口調で話をしたが、右やりとりに、少し遅れて立会った当時の被告管理部次長(ほどなく退職)は右佐藤専務の話を脅迫や脅かしとは感じていなかったこと。

(6) 佐藤専務が右のとおり原告らに退職等を求めたのは、数日前に、被告従業員熊野世紀らから、原告らが被告の業務と競合する事業を始める準備をしていて、被告の従業員にも参加を呼びかけている、との情報を掴んだからであったこと。

(7) 右やりとりの後は、原告らが被告に出社したりその勤務に就いたりしたことはないこと。

2  右1(一)、(二)の点、及び、後記三2の点に照らせば、原告らは、いずれ被告を退職する考えもあったこともあって、被告の退職勧告に対して、特に異議や質問も述べず、直ちにこれに応じたものと見るのが相当であり、そうであれば、右1(一)、(二)のやりとりは、原告両名と被告との間の本件雇用契約の合意解除というべきである。

3  この点につき、原告らは、右退職届(<証拠略>)の提出は、被告佐藤専務の強要によるもので、その前に解雇の申し渡しがあったから、退職の意思表示ではないとの旨主張するが、原告両名各本人尋問の結果によるも、被告から右やりとりの席で解雇の申し渡しがあったといえる事実を認めえず、右佐藤専務からの強い口調での右退職勧告を今になって原告らがそのように言うものに過ぎないとみられ、却って、右退職届作成提出の経緯、原告らの後記事業計画、に照らせば、右退職届の作成提出は、被告の退職勧告に応じた原告らの退職の意思表示というのが相当であるから、原告らの右主張は採用できない。

4  また、この点につき、被告は、右退職届は、単に一時預っただけで、正式に受理した訳ではないから、その提出による退職は効力が生じておらず、原告らは、その後の懲戒解雇により、被告を退職したものである、との旨主張するが、右のとおり、原告らの右退職届の提出は、被告の退職勧告に基づくものであり、それを受け取るときに被告は何ら留保をしていないのであり、原告らはその後被告に出社していない等右届提出後は退職となったことを前提とする行動をとっている、等の事情に照らせば、右退職届を被告が受け取った時に、原告らが即時被告を退職する旨の合意が成立した、というのが相当であり、従って、その後に被告が原告らに対し懲戒解雇の意思表示をしたとしても、既に、本件雇用契約が右合意により消滅している以上、右懲戒解雇は効力を有しないというべきであるから、右被告の主張も採用できない。

5  従って、本件証拠上、原告両名は、昭和五七年四月一九日、右合意退職により、被告を退職した、というべきである。

三  原告らの退職当時の規律違反について

1  (証拠略)によれば、次の(1)乃至(5)の事実が認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

(1)  原告両名は、遅くとも、昭和五七年三月頃以降、いずれ被告を退職して被告と類似の企画で会員制のレジャークラブ等の事業を始めることにつき、被告従業員の何人かに参加を打診したことがあったこと。

(2)  原告らは、前記被告退職の前後頃には、大阪市北区にある赤目グリーンシティ事務所内に机一つの事務所をもって、右事業計画の準備を整えていたこと。

(3)  原告らは、右被告退職後三カ月ほどして被告と類似の会員制のレジャークラブ等の事業を営む会社を設立して、その営業を始めたこと。

(4)  原告らが被告従業員としての勤務時間中に右事業計画に関する準備行為を行なっていたという具体的な例は、電話等で被告従業員熊野世紀に右計画に参加を打診したことの外には見当らないこと。

(5)  原告らが被告退職後、原告らの右事務所に被告のパンフレット類や被告の会員名簿の一部を写したものと覚しきノートが存したことがあったが、右ノートの内容は必ずしも明らかでなく、かつ、右パンフレット類は一般に配布されており秘密のものではないうえ、これらを持ち出したのが原告らか、また、それが被告在職中か、は不明であること。

2  右の諸点によれば、原告らは、被告在職中、右退職頃には、いずれ被告を退職して被告と類似の事業を起こす計画を準備していた、とみられるが、それは、専ら勤務時間外のことであり、未だ営業活動を始めていた訳ではなく、また、原告らが被告の会員名簿やパンフレット類を不正に持ち出していたことは確証がなく、これらの点で被告に実害を及ぼしたとはいえないうえ、右従業員に対する私用電話や勤務時間中の参加打診は、比較的軽微な規律違反であってさほどの実害があったとは考えられず、以上の程度では、右退職当時の原告らに、懲戒解雇に価するような規律違反があったとまではいえない。

四  原告らの請求債権について

1(解雇予告手当、附加金)

以上によれば、本件退職は合意退職であって解雇ではないから、原告らに解雇予告手当の権利は発生せず、従って、被告がこれを支払わなかったからといって、附加金を課すことはできない。

2(退職金)

右一乃至三によれば、原告らは右合意退職によって被告を退職したことにより、右退職金規定に従った退職金債権を取得するというべきところ、右合意退職については、その際に被告から原告らの規律違反について何ら説明がないことや原告らの規律違反が懲戒解雇に値するとまではいえないことに照らせば、これを、懲戒解雇に準ずる場合とはいえないし、また、右事情に、右合意退職が被告の強い退職勧告によって成立したものであることを合わせみれば、これを、原告らの都合による退職ということもできないから、原告らの右退職については右退職金規定所定の退職金の不支給或いは減額の事由は存しない、というべきである。

従って、原告らは、前記退職金支給規定及び原告らの退職金算定の基礎数値(請求原因(四))により算定した退職金として、原告植村益吉は金一六万四四五〇円、原告酒井敬治は金一九万〇七二五円、とそれぞれその遅延損害金(退職の翌日である昭和五七年四月二〇日起算、民法所定の年五分の割合によるもの)の各債権を、被告に対し有するということができる。

五  結論

よって、原告らの本訴請求は、それぞれ右退職金とその遅延損害金との支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、右理由の有無に従い、一部認容一部棄却とし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条に、仮執行宣言につき同法一九六条に、各従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 千徳輝夫)

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